バトンタッチで職人から経営者へ
第三者の支援で実現した事業承継への第一歩
昭和41年の設立以来、姫路市を中心に内装・リフォーム工事業を営む。オーダーカーテンの販売から始まり、クロス(壁紙)、床材、タイル工事へと事業を拡大。地域の工務店や大工との長年の取引関係が事業の基盤となっている。
創業から約60年。藪野社長も80歳を超え、以前のように営業現場を走り回ることが困難になっていた。金融機関からも後継者の選任を勧められる中、25年以上勤務している福本氏への事業承継を検討。しかし借入金の引き継ぎなどから、なかなか話を切り出すことができずにいた。そこで当協会の担当者が間に入り、対話の機会をつくることで、両者の対話が進展。兵庫県事業承継・引継ぎ支援センター(以下、「事業承継・引継ぎ支援センター」)と連携の上、3年以内の事業承継に向けて具体的な計画策定が始まった。
藪野社長 昭和41年に設立してから約60年、姫路を中心に内装工事を手掛けてきました。最初はカーテンの飛び込み営業から始めて、徐々にクロスや内装工事、リフォームと事業領域を拡大してきました。設立当時はまだ洋風の建築が少ない時代。クロスの施工ができる業者や職人は少なく、受注が増加。「注文は断らない」を信条に、どんな難しい依頼でも引き受けてきました。
経子さん(妻) 事業を広げる一方で、バブルが終わった後は思い切って規模を縮小したこともあり、時代の変化にうまく対応できたことがここまで続けてこられた理由かもしれません。また、福本さんのような職人が入社してくれて、地域の工務店さんや大工さんとの信頼関係がより強固になったことも、経営が安定していた要因だと思います。
藪野社長 近年、私自身は以前のように営業に飛び回るのが体力的に難しくなってきており、今後の営業に課題を感じて いました。そんな状況の中、令和4年に協会の担当者さんから外部専門家派遣制度の提案があり、経営についてアドバイ スをいただくことにしたんです。そこで事業承継の話が出て、ようやく退任した後のことを意識しました。今思えばあれが大きな転機だったかもしれません。
経子さん 主人が営業で飛び回っている間、私は会社の中のことを守ってきました。そんな事情もあって、実は数年前から主人には内緒で事業承継について色々と調べていたんです。相談機関を訪ねてM&Aという選択肢があることも知りました。でも、やはり長年一緒に頑張ってくれた福本さんに継いでもらえたらという思いが強くありました。
藪野社長 福本君は真面目で、仕事も確実にこなしてくれます。私のような営業タイプではありませんが、職人として、また現場管理者としての経験と信頼があります。血縁以外への承継ということで悩みもありましたが、彼なら任せられると思いました。とはいえお金まわりの課題などもあり、私たち夫婦も簡単には切り出しにくかった部分もありました。

藪野社長 正直、最初の専門家派遣から約2年経ってもなかなか事業承継について具体的な話を進めることができませんでした。一方で金融機関からは後継者を決めることを勧められていましたが、お金の話を含むことなので私たちも福本君に切り出しにくかったんです。そんな中で協会の担当者さんが定期的にフォローしてくれ、事業承継・引継ぎ支援センターを紹介いただき、承継に向けた取り組みを加速することができました。
福本氏(後継者) 正直、最初に承継の話を聞いたときは驚きましたが、お世話になった会社への恩返しという気持ちもあり、腹をくくりました。まだまだ働き盛りの年齢ですし、この会社と一緒に歩んでいこうと決意しました。
経子さん 金融機関の担当者さんも含めて、関係者全員で集まって話し合えたことが良かったです。当事者だけだと感情的になったり、遠慮があったりしますが、専門家の方が間に入ってくださることで、建設的な話ができました。
福本氏 協会の担当者さんに「経営デザインシート」を作成してもらったことで、社長と私の考えの違いが明確になりました。これも今後の経営方針を話し合うきっかけになりました。
藪野社長 協会の担当者さんからはSDGs宣言や補助金の活用など、承継後を見据えた提案もいただきました。単に承継の手続きをするだけでなく、会社の将来まで一緒に考えてくださる。こういう継続的な支援があったからこそ、3年以内の承継という具体的な目標を立てることができました。本当に感謝しています。

支援を受けようと思ったきっかけは?
藪野社長 最初の専門家派遣を受けたときに事業承継の必要性について、アドバイスを受けたことがきっかけです。事業承継については漠然と考えていましたが、具体的に何から始めればよいのか分かりませんでした。悩んでいたところ、協会の担当者さんの訪問がきっかけで事業承継・引継ぎ支援センターを紹介していただきました。専門的な第三者の視点から事業承継の具体的な進め方について助言を受けることができると聞き、利用を決めました。
経営方針の違いについて話し合うきっかけは?
藪野社長 正直なところ、私と福本君では根本的な考え方が違います。私は「取ってなんぼ」の営業出身、福本君は「やってなんぼ」の職人出身ですから。ただ、協会の担当者さんに「経営デザインシート」を作成していただいたことで、お互いの考えが可視化され、きちんと向き合って話すきっかけができました。私はリフォーム事業の拡大を考え、福本君は内装工事に特化して利益率を高めたいと考えていることが明確になりました。まだ完全に一致したわけではありませんが、こうして違いを認識できたことが第一歩だと思っています。
専門家のアドバイスで心に残ったことは?
福本氏 事業承継・引継ぎ支援センターから来られた専門家の方が、ご自身も事業承継を経験されていたことが印象的でした。実体験に基づくアドバイスはとても具体的で参考になりました。また社長と私では営業と施工という重視する部分が異なりますが、それを改めて考えるきっかけになりました。お互いの考えを理解し合うことから始める必要があると気づきました。
なぜ福本さんを後継者に選んだのですか?
藪野社長 福本君は25年以上当社で働いてくれており、職人として腕も確かで、真摯で真面目な人柄を信頼しています。最初は職人として入社しましたが、現場管理や顧客対応もきちんとこなし、取引先からの信頼も厚い。採算管理の意識も高く、適正な価格で受注することを大切にしています。私のように「とにかく売上を」という考えとは違う面もありますが、彼なら安心して会社を任せられます。
第三者の支援を受けて良かった点は?
経子さん 当事者同士では、方針の違いがあってもしっかり話をする場を設けられていませんでした。また借入金の引き継ぎという重い話題を含むため、私たち夫婦から切り出しにくかったという事情もありました。しかし、協会の担当者さんや専門家の方が間に入ってくださり、金融機関の担当者さんにも同席していただくことで建設的に議論を進める場をつくることができました。関係者全員で目線を合わせられたことも良かったです。
これから事業承継する方へのアドバイスは?
藪野社長 とにかく早めに準備を始めることです。余力があるうちに取り組まないと、選択肢が狭まってしまいます。また私たちのように親族ではなく従業員に承継をする場合、後継者候補には早めに伝えることも大切です。福本君も「もっと早く聞いていれば心の準備ができた」と言っていました。私たちのように第三者の支援を受けることもお勧めします。プロの視点から客観的なアドバイスをいただけますし、何より話し合いのきっかけになります。当事者だけでは進まない話も、専門家が入ることで前に進み始めます。
信用保証協会の支援を受けた感想は?
藪野社長 事業承継は単なる代表者交代ではなく、会社の将来を決める重要な経営判断だということを学びました。信用保証協会や専門家の支援がなければ、おそらく今も「いつかは承継しないと」と思いながら、ずるずると先延ばしにしていたでしょう。背中を押していただいたことに、本当に感謝しています。
担当者のコメント
事業承継という経営者にとって最も重要で繊細な決断に向き合うために、定期的に訪問を重ね、適切なタイミングで事業承継・引継ぎ支援センターとの連携をご提案しました。事業承継においては、経営者と後継者の間で考え方に違いがあるのは当然のこと。その違いを認識するために「経営デザインシート」を作成し、将来について話し合うきっかけづくりを行いました。
経営デザインシートとは?
「経営デザインシート」は、これからの経営を考えるための思考補助ツールです。自社のこれまでの歩みや強みを整理しながら、将来どんな姿になりたいかを描き、そこへ向けて今何をすべきかを考えるための道しるべとなります。